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藤沢焼窯元陶芸家本間伸一の陶芸作品集

本間伸一展序文集

土の器に永遠の美を求めて

昭和の初め、荒川豊蔵に始まる桃山陶器の復興は、たんなる様式の模倣以上の日本陶芸の本質的な力を掘り起こす契機となった。本間伸一氏の歩みも、備前・萩・志野等の表層的な枠に縛られず、桃山陶器に見られる日本陶器の永遠の美を志向しながら、幾多の技法を会得し独自の作風を確立するための試行錯誤の孤独な道のりであった。それにふさわしい舞台として若き日の本間氏が選んだのが、岩手県藤沢の僻遠の山中であり、北上川の土、奥羽山系の赤松を用いて、炎との格闘の中から、桃山古陶さながらの深い趣きを宿した作品が生み出されてきた。その精華は、火の力に委ねた焼き締めならではの豊かな表情と、シンプルさの中に力強さと優しさを秘めた独特のフォルムによって、内面的な存在感が見る人を圧倒する作品である。桃山人が生きていた大航海時代のおおらかな空間をも感じさせる作品は、作為を超えた美しさによって私たちの魂を揺さぶる一方、私たちの普段に仕え、喜びを与える道具としての謙虚さも合わせ持っている。40年近く、桃山陶器の美の本質を追い求める中から生まれた作品は、今、「自然」のように美しく、自在で飾り気なく、そして柔らかく温かい。

2008年5月 本間伸一陶展 せんだいメディアテーク

「麁相」たる風情を味わう

本間氏の今回の展示会では、これまでと比較すると小ぶりの茶器や花生をより多く見ることになろう。そこでは、迫力に気圧され刹那には捉えきれなかった、本間氏の自在な造形美をよりいっそう堪能することができる。それは茶陶の世界で語られる、無垢の「麁相」とした風情、桃山陶器に見られる存在感溢れる無作為の美である。
本間氏の作品は、穴窯の炎の力にゆだねることによって、土という天然自然の素材の魅力を最大限に引き出し、生気に富んだ表情を醸し出している。さらに「本間のかたち」とでも呼びたい魅力的なフォルムの中にも、巧まざる美が現れている。細部にあってはその迷いのない自然なへら使いに驚かされる。これら希有な特質は、茶陶という日本陶芸の原点の舞台において、ますます磨かれて行くだろう。
また、同じ造形の妙が一つひとつのふだん使いの器にも働いているのを見るのは楽しいことだ。かえってこうした日常に使われる器にこそ作家の力量が見えるという言葉は真実だと思う。さて、この美しく、柔らかく、温かく、軽やかでもある土の器を用いて、花を生け、あるいは日々飲食をする至福はいかほどのものだろうか?

2008年6月 本間伸一陶展  藤崎美術サロン(仙台市)

岩手の草深い山里、藤沢町深萱に穴窯を築き37年、本間先生は、日本陶芸の精華といえる桃山古陶の永遠の美を探究して来られました。天賦の才に加え、桃山陶工の心技に迫って試行錯誤を重ねる中、桃山期の優品さながらに存在感豊かで大らかな「本間桃山古陶」が生み出されてきました。
「本間のかたち」と賞揚される素にして優美な造形の妙、自然釉の織りなす「景色」に彩られた無垢の風情は、桃山古陶の美の本質に迫るものです。土と炎という造化の力に委ねた無作為な器は、暮らしの中で慈しみ用いられてこそ輝きをます「用の美」としての謙虚な姿でも魅了します。

2010年1月  本間伸一陶展(還暦記念) 一関市閑雅亭